前回、2016年9月1日以降、「一人暮らし」の精神障害者は二つの困難に耐え苦しんでいると説明しました。
- 自らの精神障害、病気との闘い
- 相対的貧困
2016年9月1日、精神障害者だけを標的とした障害年金制度の改定が行われました。それ以降、「一人暮らし」の精神障害者は、事実上、障害年金を受給することが不可能になったのです。
コロナ禍より深刻な経済被害
不支給による損害は最低でも、年間で約60万円〜72万円。月ベースでは約5万円〜6万円。新型コロナウイルスによる「世紀の大不況」であっても、日本人の年収減は38万程度と言われています。
コロナでGDP年率27.8%減 平均給与38万円ダウンの懸念 | 女性自身
映像化できない苦しみ
ここまでは、他の記事で説明してきたものと同じです。
でも、この二重苦がどんなに過酷なのかはうまくは伝っていないと思います。なぜなら、この苦しみは2つとも可視化、映像化がしにくいからです。
最も分かりにくい障害
身体障害者、精神障害者、知的障害者。この中で健常者と最も見分けが付かないのが精神障害者です。
実際、心療内科の待合室には、一目で精神障害者だと分かる人はそんなにはいません。大半の患者の見た目や言動は健常者とさほど変わりません。
(自傷行動を行う情緒不安定性人格障害者の再現。患者は本人ではなく役者が演じています。)
そして人知れず障害と闘っているです。そういう意味ではみんなどこか「孤独」なのです。
多くの方にとって、先程の動画の人物像こそが、精神障害者に対するイメージに合致すると思います。
でもそれは違います。
- 統合失調症
- うつ病
- 不安神経症
- PTSD
- パニック障害
- 摂食障害
- 発達障害
- アスペルガー症候群
- 産後うつ…など
実は、精神障害には非常に多くの種類があります。身体障害と同様に、多様性があるのです。それなのに1つの固定観念しかもたないという事が間違いなのです。偏見・差別(スティグマ)の温床になるのです。
環境活動家グレタ氏はアスペルガー症候群だそうです。アスペルガー症候群について知ると、彼女の独特な言動について少し寛容になることができます。
私は彼女を支持しません。しかし、彼女にも障害と闘う者の特有の孤独を感じることがあります。
精神障害者の見た目・言動
現実は、むしろ以下の動画のように、身なりも普通で淡々と受け答えする精神障害者の方が多いと思います。
※不安神経症患者の再現。これも本人ではなく役者さんが患者を演じています。画面左側の女性は医師です。
うつ病患者の見た目・言動
うつ病患者の再現動画もあります。
こちらの演技については若干の違和感を感じますが、とても貴重な映像資料です。
軽度のうつ病の場合
「軽度のうつ病患者」の動画もあります。
いずれのケースでも、精神障害があるからといって、そんなに見た目や言動がすごくおかしい、明らかに異常だとは思わなかったと思います。
私達は精神障害者ですが、決して精神「異常者」ではないからです。精神障害は、内面の苦しみです。ですから必ずしも外見や雰囲気に顕著な変化が現れるとも限りません。
だから自分でも発症に気付きにくいのです。
心の視覚化
心の病気なので、当然苦しいのは内面です。でもその内面を可視化、映像化することは不可能です。怪我や病気なら、傷口・患部や入院・手術シーンを、つまり苦しみを直接映像として記録できます。
それができれば、私達の苦しみ、困難は多くの人と簡単に共有する事ができます。画像、動画共有サイトに投稿することで、精神障害の苦しみへの理解と共感が進むはずです。
今は Instagram、YouTube 等に代表されるように「画像の時代」。言葉だけで「精神障害との闘いは苦難の連続だ」と説明しても、どれだけの人の関心と共感を集められるでしょうか?
2020年10月からスタートした「一人暮らしの精神障害者を支援する募金」キャンペーン。
精神障害との闘病自体が苦難。それなのに「一人暮らし」というだけでで障害年金がバッサリカット。そして相対的貧困との二重苦に陥る。相対的貧困については、募金・寄付によって大きく解消ができる。2つのうち1つの苦しみは募金・寄付の力で取り除くことができる。そういった趣旨でご支援をお願いしています。
でも、この骨子の最初、精神障害の苦しみに関心を持っていただくための映像資料がなかなか揃わない。そのため私は今、宣伝PR活動にもがき苦しんでいます。

出展:Business Owners are you struggling to improve your profit margin? - Brilliant Breakthroughs, Inc.
行き過ぎたビジュアルコミュニケーション、「画像の時代」との闘いです。勝ち目は無さそうです。
うつ病の典型的な症状
精神障害についての映像資料は、個人の力ではこれ以上は見つけられません。これらはあくまで臨床心理学のビデオ教材です。大学等の教育機関であればもう少し多くの資料はあると思います。
ここでもう一度うつ病患者の動画を掲載します。今度は字幕付きです。
自動翻訳の仕方
この字幕は日本語に訳せます。会話内容を日本語で見られるのです。
ただ字幕を翻訳するには、以下の4つの設定を行う必要があります。簡単ですのでぜひ行って下さい。
1.プレーヤー右下の「設定」アイコンをクリック
2.メニューの中から「字幕(1) 英語(イギリス)」をクリック
3.一番下の「自動翻訳」をクリック
4.一番下の「日本語」をクリック
何に苦しんでいるの?
字幕が日本語訳されることで、彼女がどんなことで悩んでいるかが聞き取ることができます。
最初の8分間の視聴だけで大丈夫です。8:02 秒でストップするように設定しています。それ以降の話題は研究者、学生向けなので特に必要はありません。
- 落ち込んでいる、惨めでうんざり
- (心身の)エネルギーが低い
- ソファーで1日過ごす
- 睡眠障害(入眠障害と早朝覚醒の両方)
- 極度の疲労感
- 食欲減退
- 集中力の低下
- 自己否定、自己肯定感のなさ
- 無力感
- 意欲の低下
- 「べき」思考が強い(〜すべき、〜しなければという思考)
これらが彼女の主張でした。医師の「まとめ」に載らなかった症状も補記してあります。うつ病患者であれば思わず「あるある」と共感してしまう症状ばかりです。
特に何が大変?
うつ病は心の病、脳内ホルモンバランスの乱れです。しかし身体の不調も伴います。
心と体は分かちがたいのです。
- (心身の)エネルギーが低い
- 睡眠障害(入眠障害と早朝覚醒)
- 極度の疲労感
あくまで個人の意見ですが、うつ病の症状で一番辛いのは「極度の疲労感」だと思います。体の自由が全く効かなくなります。
幾重の鉛をまとった体を起こし、学校や会社に向かうことは到底不可能。
また、そのためのエネルギーも足りません。睡眠不足で疲労は溜まる一方。特に脳の疲労、頭重感が半端じゃないです。頭が重くて疲労なのか痛みなのかさえわからなくなる。本当にしんどいのです。
画像でも言葉でも表現しきれないこの辛さ。ただひたすら半日以上、ベッドやソファにうずくまる。疲労が抜け、動けるようになるまで。もちろん抑うつ感などの精神症状も伴っています。しかし、「極度の疲労感」の方が何万倍も辛いのです。
この症状を抑え込まない限り、復職や社会復帰は相当困難だと思います。ずっと私はここでつまづいています。「極度の疲労感」を抑える頓服薬のようなものがあれば、私の人生は180度違っていたと思います。
学校や職場で月に数回、不定期で休む人いません(でした)か?健常者と同じ事をしているけど、実はうつ病で「極度の疲労感」、易疲労性と闘っている人は多いと思います。
障害も可視化、画像化され「いいね」や「シェア」されなければ、配慮がしてもらえない。もしそうだとしたら、精神障害者が一番配慮されていないでしょう。なぜなら、私達の苦しみは心の中にあるからです。そしてその苦しみを外からすぐに映像として捉え、共有、「シェア」できる人などいないからです。
しかも心の苦しみを実写化しようしてもプライバシーの懸念がある。ビジュアルコミュニケーションと精神障害はとても相性が悪いのです。本当に生き辛いです。
相対的貧困も見えにくい
貧困には2つのタイプがあります。
- 絶対的貧困
- 相対的貧困
絶対的貧困とは「生きるのが困難なレベルで生活水準が低いこと」を指します。サブサハラ、アフリカ地域での貧困、難民の生活などがその例になります。
一方、(日本における)相対的貧困とは、あえて大雑把に言えば「まかなえるのが最低限の食と住だけの状態」。それ以外の衣服費、交際費、医療費、進学費用等は支払えません。
2016年9月1日以降、一人暮らしの精神障害者が陥っているのは、もちろん相対的貧困の方です。
ですから、相対的貧困は見た目では分かりにくいのです。また、その苦しみの説明、映像化はかなり慎重に行わないと、いじめや冷やかし、中傷につながるリスクもあります。
数字で説明します
ですので相対的貧困の苦しさは「数字」を使って説明したいと思います。
私は、2019年10月、県から「総合支援資金」という融資(借金)を受け、当面の生活費を工面しました。
私は2018年12月まで健常者として非正規で働いていました。しかしやはり「極度の疲労」等の身体の不調が続いたため退職を余儀なくされました。
その後は、雇用保険の受給していたのですが、2019年6月に受給期間は終了。当然その期間、懸命に就職活動はしていたのですが実らず。9月に入ると、もう目先の生活費が見通せなくなるように。
頼るところが無く公的融資を利用することになりました。
1か月の支出内訳
10 月初旬、社会福祉協議会を訪れました。そこで融資についての条件、融資額の調整が始まりました。
必要最低限の支出額の査定や、いくらの融資までなら確実に返済できるかについて、非常に綿密な打ち合わせを行いました。レシート、領収書、クレジットの内訳も全て提示しました。預金通帳も全銀行分提示しました。融資は簡単には受けられません。

提出資料は電卓で必ず2度検算されました。出展:Bookkeeping as a Service - Partners in Business
それらの根拠資料をもとに、「生活支援費 1か月の支出内訳」という【収入】と【支出】の内訳を表にまとめた「別紙」を作成します。これは3回くらい作り直しました。かなり細かい指摘が入ります。3回だと手直しは少ないほうだと思います。
この「別紙」、以前はウェブサイトからダウンロードできました。今は公開されていません。内容相違があるといけませんので、このサイトでは公表しません。
世帯収入
「生活支援費 1か月の支出内訳」(別紙)では、まず最初に【世帯収入】の申告を行います。
「就労していた頃の収入額」は、直近の勤め先での手取り額の「平均値」を計算し記入します。根拠として、当時の給与明細の提示も必要です。そのうえ銀行の取引明細も必要です。それらを照合し他に収入源がないか、金額に誤りがないかもチェックされました。
「A 現在の収入額」は当然 0 円でした。これについても、銀行の取引明細で申告に虚偽がないかチェックされました。
世帯支出
【世帯支出】の記述はすごく大変でした。細かすぎるので省略しましたが、本当はもう1列「現在の支出額」という項目もありました。
「就労していた頃の支出」では、一番最後に収入があった月の支出内訳を申告します。もちろん当時の領収書等の証拠資料も必要です。支出内容(家賃、水道光熱費等)の項目名の設定、及び支出の仕分けも基本的に自分で行います。そして添削を受けます。
画像では省略しましたが、次に「現在の支出額」、2019年10月の支出内訳も根拠資料を添えて報告します。当時の「現在の支出額」の総合計は151,075円でした。
これらを比較・精査し、1か月分の貸付金(貸付期間中の支出額)を相談しながら決めていきました。
- ギリギリだが食べていて、餓死はしていない
- 住みかも何とか「確保」している
家賃が高いのは確かです。うつ病になる前から住んでいる物件のため高いままです。引っ越しは何度か検討しました。しかし、引越し費用さえまかなえませんでした。本当に食と現在の住みかを確保するだけ手一杯なのです。
住居確保給付金
申請時点(2019年10月21日)での銀行口座総残高は144,815円でした。1週間後の月末には家賃70,000円と水道光熱費・通信費の約30,000円、つまり100,000円程度が引き落とされました。ですから実質の口座残高は40,000円程度でした。
これでは11月以降の家賃の支払いが困難でした。そのため住居確保給付金(最大 45,000円)も併用しました。これは給付なので返済の必要はありません。
最終的には住居確保給付金が差し引かれた金額が、1か月の借入金額となりました。3か月分借入しました。現在返済中です。
本当に文化的じゃない
ここでもう1度、【世帯支出】の内訳を掲載します。
- 趣味・娯楽費
- 被服費
- 交際費
- 教養費
- 貯蓄費
相対的貧困世帯はこれらの「文化的な支出」、人間として最低限度の5つの支出が「実際に」できていないのです。これら内訳は一般的な家計簿には載っているはずです。しかし私達のには無いのです。
たった5つの違いです。しかし、あなたがこれら5項目全てに対し、金輪際支出できなくなったらどうでしょう?
きつすぎる?惨め?絶望?実際は、それらが入り混じった悲しみの混沌です。
一人暮らしの精神障害者の相対的貧困の原因は、障害年金制度改悪にあります。
2016年9月以降、「一人暮らし」をしているという理由だけで、障害年金が不支給になってしまったのです。そして相対的貧困に陥りました。
「一人暮らし」で「貧乏」で「うつ病」でなおかつ「就職超氷河期世代」の人間に伴侶なんてできるんでしょうか?一人暮らしからの脱却できるんでしょうか。障害年金の資格は再度得られるんでしょうか。いいえ、生涯、相対的貧困に苦しみ孤独のまま死ぬ。
それは立派な「生存権」の侵害。絶対に許してはいけない。だから声を挙げているのです。
日本国憲法第25条 生存権
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
補足
うつ病の通院費だけなら、4,000円で十分足ります。私の場合、うつ病またはストレスが原因なのか重度の脂肪肝、脂質異常症、急な体重増加にも苦しんでいます。急な体重増加はシンスプリントという怪我に繋がりました。その治療費や、肝臓の治療費もかさむため、医療費が14,000円と高くなっています。
その他雑費が高いのは、ちょうど2周間使い捨てコンタクトレンズを買い替えの時期と重なっていたからです。見積もりやレシートがあったので必要支出として認められました。コンタクト代は大体13,000円でした。
運営者の説明責任
前回より2016年9月1日以降、「一人暮らし」の精神障害者は同時に二つの困難に耐え苦しんでいると説明しました。
- 自らの精神障害、病気との闘い
- 相対的貧困
これらはお互い複雑に絡み合い、新たな困難を次々に生み出します。
しかしこの内、相対的貧困については皆様の募金や寄付によって大幅に負担が軽減されます。本来、こうした金銭的支援を担っていたのが障害年金だったのですが。
1つの問題が軽くなれば、もう1つの問題の苦しみも軽減されます。
私は1年半もの自宅療養を終え、社会復帰する際に主治医から何度もこう指導されました。
パートタイムから始めて、慣れてからフルタイム勤務に移行しましょう。
しかし、障害年金の支援がないため、最初からフルタイムで働かざるを得なかったのです。結局それは医師の推測どうり失敗に終わっています。
主治医の本来の指導に従って適切な方法、まずはパートタイムで社会復帰をやり直したいのです。
うつ病と想定的貧困の苦しさ。両方とも映像資料が乏しく、説明の仕方に相当悩みました。
しかし、募金・寄付、支援を求める者には、困難状況を説明する責任があると思いました。またその目的・使途の説明も必要だと思いました。
募金・寄付ではなく、記事のシェアもかなりの支援になります。多くの人が関心を持つ記事ではない、検索されない記事なので、シェアの効果はかなり高いです。
最後までお読み頂きありがとうございました。